住宅の性能には、必達領域とマニア領域がある


住宅の性能とは?

家づくりでは、性能というワードがたびたび出てきます。明確な定義があるわけではないですが、だれにとっても評価軸が同じものの総称だと考えればよいでしょう。例えば、仕上げ材の質感が良い悪い、というのは性能と表現されることはありません。一方、だれにとっても強いほうが良い建物強度や、だれにとっても高い方が良い省エネ性などについては、性能と表現します。

性能には、大きく分けて三つの基準が存在します。

A.の公的な基準には、これを守らないと建てられない厳守基準(建築基準法)と、税金の減免など有益な特典で目標とする性能の達成を促す誘導基準(長期優良住宅やZEHなど)があります。具体的な内容は複雑なので、別に改めて説明する機会を設けます。

B.の業者の自社基準というのは、一般的にはAの誘導目標同等かそれ以上の基準を自社のポリシーとして設定している場合のことです。業者選びでとても大切なことです。高すぎる基準を設けて必達を掲げているところは、設計の自由度がかなり狭まることもありますが、多くの場合、基準を明確に伝えられる業者の方が安心感はあるでしょう。基準が明確でない場合、設計の行きあたりばったりで低い性能になる場合もあります。

 C.の建築主が満たしたい基準を持つことは、実は一番大切で、一番むつかしいことです。予算配分や業者選びにも関わりますし、当然、住まいの満足感にも影響を与えるでしょう。しかし、性能が良いということがどういうことかを学ぶことはできても、どの程度の性能が妥当かというバランスを判断することは、とてもむつかしいことです。結局は、Bの説明を聞いて、その説明と自分の価値観を照らし合わせて判断するということになることが多いと思います。

性能の種類

性能の種類というと強度性能と省エネ性能が代表的です。その他には、防火性能や防音性能、外壁材の防水性や耐候性、耐久性、などなどがあります。いずれにしても、良いキッチンというようなことが極めてあいまいで主観的な概念なのに対して、良い性能とは、客観的な評価のしやすい明確な概念であることがわかります。

性能とお金と自由度の三角関係

性能というのは、お金と自由度との三角関係です。

性能を上げるには、お金がかかるか、自由度が下がるかのどちらかのデメリットとのトレードオフの関係にあります。

例えば、お金をかけずに耐震性能を高めたいと思ったら、自由度を犠牲にして正方形に近い形状の窓の小さな壁の多い家を計画する必要がありますし、高い自由度を確保して気に入った斬新なデザインの建物で耐震性能を高めたいと思ったら、構造計算をして構造材をふんだんに使うなど、お金をかけることになります。

妥当な性能の高さ

性能は高い方が良いですが、性能だけが良ければ他のすべてを犠牲にしてよいかというと、そうはなりません。そこで、ここでは実感できる領域とマニアな領域とがあるということを意識することを提案したいと思います。

例えば、萩森建設では、二〇〇年住宅というコンセプトを推進していますので、実感できる領域の最高性能を極力満たすべきだという考えに基づいて建物を計画しております。将来のある時点において、それ以上優れた実感できる性能の家が現れると羨ましくなって、建て替えたくなっちゃうかもしれませんから、それは避けたいわけです。一方、マニアな領域の性能はケースバイケースで対応させていただいております。わかる人にしかわからない領域の性能は、それを求めるケースのみ求められる形で提供することになります。

マニアな領域の境界

省エネを例に具体的な数値で説明させていただきます。住宅の省エネ性能の尺度に、外皮平均熱貫流率(UA値) [W/m2K]というものがあります。熱の通しやすさの尺度ですので、数値が小さければ小さいほど良い性能ということになります。公的な誘導基準である次世代省エネ基準では、愛知県東三河地域(6地域)の数値は0.87 [W/m2K]というものです。愛知県東三河地域(6地域)で家を建てる皆さんは、これを必達にしていけるように努力してくださいね。という基準です。近い将来には、この地域で建てる多くの建物がこの基準をクリアしていくと思います。弊社の場合、この数値で表した場合、0.57~0.63くらいが会社としての必達基準です。幅があるのは、この程度の水準を達成できていれば、シャカリキに数値を追い求めるより、設計の自由度などの余地があったほうが良いと考えているからです。会社さんによっては、0.46以下を目標にすることを特徴としているところもあるかもしれません。これは、北海道での次世代省エネ基準になりますので、北海道基準だと主張できるわけです。私どもの感覚では、0.7以下の性能くらいまでが実感できる範囲で、それ以上の性能はマニアの領域だと考えています。東北地方の海岸部(4地域)の次世代省エネ基準が0.75ですので、その程度の性能を愛知県東三河地区で供えていれば、将来にわたって十分な性能だと言えるだろうと思っており、それ以上の性能は欲しい人だけ求めるマニアな領域だと考えています。

もちろん、注文住宅の萩森建設としては、マニアな注文は大歓迎です。ですが、マニアな領域には大きなデメリットがあります。コストパフォーマンスが悪化するのです。

マニアな領域は、マニアな希望を満たせるという点において価値を発揮しますが、例えば冷暖房費が少なくて済む、というような実際的な効果で差額を説明することはできなくなります。性能向上の効果がほんの少しの差になってくるので、差額を実感することはほとんどできません。

(反論も予想されるので、機会があれば別の記事で詳しく説明したいと思います。この領域の説明は、大手メーカーのカタログでも、ちょっと勘違いさせるようなずるい書き方をしてますから。)

良い音楽を聴くためのスピーカーもマニアな領域では多くの人にコストパフォーマンスは理解されません。

自動車の性能を極めた高級車もマニアな領域ではコストパフォーマンスは崩壊していきます。

マニアの領域では、成果とコストを比較するコストパフォーマンスとは別の方法でコストの妥当性を判断する必要があると思います。この話は、別で掘り下げて語りたいと思います。

まとめ

まとめると、

ということになります。

今回は、建物の性能について、ほんのさわりをお話ししました。

この説明がそもそもマニアの領域のような気がしなくもないですが、もっと深い話がたくさんありますので、別に改めて掘り下げた説明をしていきたいと考えています。

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