数学が得意な方の住宅ローン比較法〈住宅ローンの真実〉


  1. 大きな文字で書いてある数字はあてにしてはいけない
  2. 金利だけで比較してはいけない
  3. キャンペーン金利に惑わされない
  4. 割合(%)ではなく、金額(円)で比較しよう
  5. 差のない費用、差のある費用
  6. 保障や利便性の違い
  7. 試算は金融機関に頼もう 比較はプロに頼もう

※引用:三菱UFJ銀行のネット型住宅ローン


前回の「数学が苦手な方の住宅ローン比較法」の続編です。(^^)

数学が嫌いではない方に向けて、ご自分で計算する場合に、住宅ローン特有の肝となる部分をいくつか説明します。先に、前回のページを見ていただいたうえでこちらをお読みいただければ幸いです。


大きな文字で書いてある数字はあてにしてはいけない

スマホの料金などでもおなじみの「大きな文字で書かれた数字は信じてはいけない」ですが、住宅ローンにもあてはまります。お得な数字の適用期間は短く、なぜその数字になるかの直接的な表現も避けられている場合もあります。

例えば、上記の例では変動金利の0.475%だけは、2.475%(店頭表示金利)-2.00%=0.475%という3つの数字の関係が一目でわかりますが、3年固定の0.34%や10年固定の0.64%は、一見すると求め方がわかりません。固定期間が終了した後については、直接的な金利の表記はなく、店頭金利からの割引である、-1.75%や‐1.5%という数字しか見つかりません。

つまり、最初の固定期間は金利だけ、固定期間終了後は割引だけを表示しているわけです。

実際に計算してみると、3年固定の場合、2.94%(店頭金利)が0.34%になるのですから、割引は0.34%-2.94%=-2.6% 同様に10年固定の場合は、0.64%-3.29%=-2.65%となります。

では、なぜこんな少しわかりにくい表現をするのでしょうか?

それは、大きな文字で書いてある数字が期間限定であるということを少しわかりにくくするためだと思われます。

例えば、3年固定の割引が、最初の3年は-2.6%で4年目からは-1.75%だと一目でわかれば、4年目に自動的に0.85%金利が上がってしまうのか、と気づく人は増えます。しかし、上記のような表現であれば、具体的にさっと金利上昇をイメージできる人はぐっと減ることでしょう。

10年固定では、11年後に割引が-2.65%から-1.5%へと、実に1.15%も上昇します。

MUFGの名誉のために言えば、MUFGだけではなく多くの金融機関でこのような表現になっています。スマホ料金と同じような数字によるイメージ戦略と考えてよいでしょう。


金利だけで比較してはいけない

数学が得意な方であれば、さらに考慮に入れるべきことが、金利はその時点での元金残高に対して掛けるものなので、元金が減れば金利が上がっても利息額は上がりにくいということです。

当初金利が低い場合、同じ返済額で一定期間返済を続けた時点での元金残高は、当初金利が高い場合よりも減少しています。この時点で、比較対象のローンよりも金利が上回るように上昇したとしても、元金が減っている分利息額の上昇は小さくなります。つまり、当初金利だけ低く見せるのは、ずるいけど、まんざらでもない、ということです。

こういった細かい補正を考慮に入れてやらないと、金利だけでは実際の利息額の比較はできません。

また、当初の借り入れ元金の考え方についても注意が必要です。

住宅ローンの費用を考慮に入れず、その他すべてを検討した結果の資金計画として、借り入れが2000万円必要だとします。住宅ローンの費用が0円であれば、2000万借りればよいですが、住宅ローンの費用が50万円必要であれば、2050万円借りる必要があります。住宅ローンのイニシャルコストが大きければ、借入元金もその分大きくなるのです。「その分は自己資金で賄うから大丈夫。」ということもあるかもしれませんが、その場合、借入額を同額分少なくできるのですから、結局は、イニシャルコストに必要な金額分は、元金に差はつくのです。

イニシャルコストで50万円の差は、2000万円を35年で借り入た場合、およそ0.14%程度の金利と同じ負担になります。

2000万円 35年返済 金利0.6%≒2050万円 35年返済 金利0.46%

というくらいの計算になります。

つまり、2000万円の調達が必要な場合、イニシャルコストに50万円の差があれば、金利は0.14%以上安くないと得でないということがわかります。もちろん、当初だけではなく、35年の返済期間を通してそれだけの金利差があることが前提になります。返済期間が短い場合は、さらに大きな金利差がないと得になりません。例えばこの50万円の差があるケースで、20年返済の場合は、金利が0.247%以上安くないと得にはなりません。

住宅ローンを借りる際に必要なイニシャルコストの差は、金利を比較する上で大きな影響を与えることがわかっていただけたでしょうか?


キャンペーン金利に惑わされない

3年固定金利10年固定金利というのは、店頭表示金利の固定期間を指します。店頭表示金利を3年間や10年間変更しませんよ。ということです。一方、変動金利を選択した場合、この店頭表示金利が半年単位で変更されます。変動金利の場合、金融機関としては、社会情勢により資金の調達金利が上昇すれば、その都度貸出金利も上げればよく、リスクがあまりありません。3年固定も、3年間我慢すればその後金利を上げることもできますので、金融機関のリスクは変動金利ほどではないですが小さいものです。10年固定になると、10年間の間に調達金利が上昇するかもしれない不確実性は高まりますので、リスクはだんだん大きくなります。

そこで、そのリスクに応じて、変動金利は低めの店頭金利を、3年固定や10年固定になると、そのリスクの大きさに応じて、店頭金利もだんだん高めに設定されていくということになります。

店頭金利は、変動金利<3年固定金利<10年固定金利というふうになるのが普通です。

(上記の例では、変動2.475%<3年固定2.94%<10年固定3.29%となっています。)

一方、金利の割引は、調達金利といった社会情勢よりも、それぞれの金融機関の営業戦略によるところが大きいです。各金融機関の競争の主たるものは、通常この割引合戦により行われます。特に、3年固定金利というのは、3年間という短い期間に限ることが出来るので、赤字覚悟の大きな割引をして当初の金利を安く見せるという手法が行われやすいものになります。なので、店頭金利は、固定期間のリスクを反映した順当なものになっていても、割引後の実効金利は、変動金利よりも3年固定金利の方が安いということが良く起こります。

上記の例でも、大きな文字で書かれた金利は、3年固定金利が一番低くなっています。

3年固定金利が変動金利より低い場合は、その理由を追求してみましょう。


割合(%)ではなく、金額(円)で比較しよう

住宅ローンには、いくつもの割合を表す数字が出てきます。しかし、損得という意味では、結局は金額です。金利が高くても、返済総額が少なければ得ですし、金利が低くても返済総額が多ければ損だといえます。

金利と利息額は当然比例しますが、返済総額はこの利息額だけではありません。保証料や手数料など、利息以外の費用も含めて返済総額と考えるべきです。


返済総額は、現時点の条件で計算することが出来ます。しかし、その金額は一般的に不確定な要素を含んでおり、契約する住宅ローンごとのルールのもと変化します。

この変化の大きさは、リスクと考えられており、そのリスクについても割合ではなく、金額でできる限り把握しておくとより具体的にイメージでき、対策も可能になります。


住宅ローンを検討する数値を、現時点で確定するものとしないものに分けます。


■確定するもの

・買い入れ金額(当初元金額)

・借り入れ時の店頭金利

・店頭金利からの割引金利(金融機関との契約で決まる)

・手数料や保証料の割合(一括の場合は金額も決まる)

・その他借り入れに必要な諸経費(登記費用、火災保険掛金など)

■確定しないもの

・固定期間終了後の店頭金利

・繰り上げ返済の予定(時期と金額)

・(前2項の影響による)元金残高の推移


上記の数値のうち、確定しない数値をどう推定するかが、数学が得意な人にとっては大きなネックになります。そして、その推定を常識的な範囲で楽観側に推測したものと、悲観側に推定したものの差が、不確定リスクということになります。

店頭金利については、長期間変動を抑えた固定金利を選択すれば、不確定量を小さくできますが、一般に金利は高くなります。

任意の繰り上げ返済を、計画的に実施する(しない)と決めてしまえば、不確定ではないのかもしれませんが、家計状況の変化なども考えられますので、確定とまでは言えません。

一般的に、楽観側に推定した試算の得が大きいプランほど、悲観側に推定した試算の損も大きくなります。

これには、店頭金利の上昇に対して、計画以上の繰り上げ返済をし、元金残高を減らすことで、利息負担の上昇を防ぐなどの対策余地も併せて評価します。

いずれにしても、数学が得意な人にとって住宅ローン特有の注意ポイントは、計算だけで確定しない要素があるということです。

それら不確定要素も想像して、自分の実情に合った最終的な返済総額が少なくなるプランをシミュレーションします。

割合の大小ではなく、実際に支払う総返済額の大小にあくまで注目していきましょう。


差のない費用、差のある費用

金利を低く表現できるネット型住宅ローンのホームページを今回は例として挙げています。

そのなかでも「事務手数料型」と呼ばれるものを参照しています。住宅ローンには、大きく二つのタイプがあります。一つは、保証会社(保証人の代わりを担う)の保証を受けて金融機関が融資する「保証型」、もう一つは住宅ローンを債権化して機関投資家に販売するなどし、金融機関は販売手数料を受け取る「手数料型」に分かれます。金融機関にとっては、少しずつずっと収益を上げるタイプか、契約時にまとめて収益を上げるか、という違いになるわけですが、後者はまだまだ特殊な形態と言え、特徴の強い住宅ローンが多いです。

金融支援機構が買い取る「買取型」のフラット35や、三井信託銀行が買取る形の住信SBIの住宅ローン、この記事でご紹介しているMUFGのネット専用住宅ローンなどが代表的なものです。

借りるほうにとって両者の大きな違いは、金利以外に必要な主な費用として、前者の「保証型」では保証金が、後者の「手数料型」では手数料が、それぞれ必要なところです。

※保証型においても手数料という名目は存在しますが、それは本当に書類作成などの手数料を意味し、高くても5万円程度まで(多くは、無料から数千円)がほとんどで、手数料型の手数料とは意味合いが異なります。


保障や利便性の違い

住宅ローンに付帯する保障制度や、損得にも直結する利便性についても説明します。

フラット35を除くほとんどの住宅ローンは団体信用生命保険の加入が義務付けられています。このため、団体信用生命保険に加入できない場合住宅ローンを借りることが出来ません。(多くの場合、掛け金は金融機関が負担し、無料という体裁になっています。)フラット35は、団体信用生命保険の加入が義務付けられていないので、持病などで加入できない人でも借りることが出来ます。

義務付けられている団体信用生命保険により、不慮の際には住宅ローン残高の清算が可能ですが、それは死亡や重度障害の時のみになります。この保障範囲を広げて、存命であってもガンなど特定の疾患にかかかったら、残高を精算できるタイプや、就業がが出来ない状況であればその期間返済を肩代わりする保障などがあります。これらは、通常追加の掛け金が必要になります。

ここで、注意が必要なことは、この保険は一般的な生命保険と異なり、残高が減ると保障金額も自動的に減っていくという点です。このため、この掛け金は金利に上乗せられる利率として掛け金を収める形式になります。元金に対する割合で保険の掛け金が決まるので、返済と共に保険料も少なくという仕組みになっています。

そのことをご理解いただいたうえで、こういった通常追加費用が必要な広範囲の保障を無料で設定することを強みにした住宅ローンのいくつか出ています。

例えば、住信SBI銀行では、「全疾病保障」という保障内容を広げた保険が無料でついてきます。こういった保険があれば加入するという、保険安心感じるタイプの方であれば、この分も他金融機関との比較の一つとなります。

繰上げ返済の容易性も、少しでも積極的に得になるような工夫を計画している方にはとても重要なポイントとなります。

現在では、ほとんどの金融機関が繰上げ手数料を0円に設定しています。しかし、繰上げ返済の手続きの容易性には大きな開きがあり、金融機関の店頭で紙の書類に記入して手続きを行うという金融機関も少なくありません。こうなると、数十万~100万円程度のまとまった金額が貯まるまで手続きがしずらい感じになります。

この手続きをインターネットで行える金融機関であれば、ネット振り込みと同じような手軽さで、1万円からでもその都度、繰上げ返済を行えます。

繰上げというのは、早ければ早いほどお得になりますので、貯まるまで待つよりすぐに少しづつ実行したほうが良いのです。

こういった利便性は、繰り上げ返済により積極的に金利負担を軽減しようと計画している方にとっては、大きなポイントです。


試算は金融機関に頼もう 比較はプロに頼もう

まとめると、住宅ローンの比較要素は以下の2つに分けられます。

  1. ・契約時点の条件での比較
  2. ・将来予想されるリスクを加味した比較

1については、自分で計算すると幾通りの試算もできます。住宅ローン専用のスマホアプリもいくつかありますので、容易に比較できます。しかし、金融機関によっては、交渉によって条件が変わるところもあり、公開情報だけでは正確な試算が出来ない場合もあります。

結局は、見積りという形で試算表を各金融機関から提案してもらうのが確実です。

2の将来予想については、リスクを想定することは金融機関ではあまり試算してくれませんので、自分で変数を入れてみることになります。

しかしながら、やはり妥当な変数の範囲を業界の人間以外の方が予想するのは困難だと思いますので。ここにも、プロのアドバイスが必要になると思います。

数学が得意な方にとっても、金融機関やプロに上手に依頼することで、より深い検討を容易にできるようになるでしょう。

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