<寒い日の断熱談義>


この原稿を書き始めたころは、今年一番の寒さでした。

でも、なかなか書きあがらなかったんです。(^^;

もうだいぶ寒さが和らいできてしまいましたので、理屈っぽい説明をバッサリ削除して、肝心な部分だけあっさりと説明したいと思います。


=快適な暖房と断熱の話し=

高気密高断熱の家は暖かいというイメージを持っている方が多いと思いますが、もちろん、それだけで家は暖かくなりません。

いくら熱が逃げにくくても、そもそも熱がなくては暖かくなりようがないからです。

ですから、暖かく快適な空間は、暖房器具と建物の断熱性能とセットで実現されるものです。


=断熱性能と暖房能力=

断熱性能とは、熱の逃げるのを遅らせる性能のことです。

暖かく快適な空間のためには、熱が逃げていくより大きな暖房能力が必要です。

熱を逃がさないようにする工夫と、適切な暖房能力は、どちらも同じように重要です。

断熱性能をおろそかにすることはもってのほかですが、断熱性能さえよければすべてよしということにはならないということは理解しておく必要があります。


=暖房の効きがおそい=

断熱性能をどんどん高めていっても、暖房の効きは一定以上早くはなりません。

無人の冷めきった建物に、最初に帰ってきて、「寒い寒い」と暖房器具のスイッチを入れたとします。

この時、暖房器具の性能に合わせて、建物に熱エネルギーが放出されます。

断熱性能が高ければ、すぐに快適な空間になりそうですが、実際にはそうはなりません。


=建物や家具などの物体を温める=

暖房して快適な空間になるには、天井、壁、床といった建物自体や、家具など、室内にある物体すべてが温まっていく必要があります。室内の空気が温まるだけでは、まったく快適な空間にはなりません。断熱性能が良くても、その断熱材の内側にある物体が温まる熱量は必ず必要になるわけです。

物体を温めることのできる熱エネルギーの量は、空気を温める熱量よりもはるかに大きなものです。その量を暖房器具によって放出する必要があるので、小さな暖房能力では、暖房の効果を得られるまで時間がかかってしまいます。


=暖房器具の効率=

室内に熱エネルギーを放出するという視点で考えた場合、圧倒的に効率が良いのはエアコンです。

数々の省エネをうたう暖房器具がありますが、効率という点だけでいえばエアコンが圧倒的で、比較にもなりません。

効率とはコストのことです。

1000円を熱エネルギーに変換するのに、エアコンが一番たくさんの熱エネルギーを室内に放出できるということです。


=エアコンは暖房に不向き?=

それでも、エアコンは暖房に不向きだと感じている方は多いと思います。

これには主として2つの理由がありますが、その原因は「高い位置」から暖かい「空気」を噴出して温めることにあります。

高い位置から出るため、温かい空気は天井にたまりやすく、なかなかな人のいる床付近まで降りてきません。

空気は、室内の物質に熱を渡すのが苦手で、熱を渡す前の温かい空気のまま換気扇などから外に出て行ってしまいがちです。


=暖房器具の種類=

暖房器具には、物体を温める方法によって大きく2種類の考え方があります。

空気を温めて、それによって物体を温めていく、エアコンやファンヒーターなど。

物体を温めて、それによって別の物体を温めていく、床暖房や各種ストーブ、壁、天井ヒーターなど。

その2種類は、得意なことが異なることがわかります。


=暖房の効果を上げる=

暖房の効果を上げるには、空気と物体の熱の移動を十分かつ速やかにして、物体も空気と同じように温まることが大切だということがわかっていただけますでしょうか?

空気から物体への熱移動の効率を上げる方法は、実はただ一つしかありません。

空気をぶつけることです。つまり、風を起こすことです。

最近のエアコンでは、床下に向けて勢いのある気流を出して、床に意図的に空気をぶつけることのできる機種が増えていますが、床暖房かと思うくらいしっかりと床が温まります。

しかし、風は体感温度を下げ、物体の乾燥も促すため、体に直接あたると不快な要素となります。

そこで、風を人には当てずに物体に当てる。できれば、床や低い位置にある物体に当てる。ということを行いたいわけです。

諸条件によっては達成できない場合もあるので、床暖房(ホットカーペット)や電気ストーブなどを補助的に使ったり、エアコンではなく、低い位置から温かい空気を噴出できるガスファンヒーターを使ったり、いろいろ工夫をします。


=高気密高断熱の住まいでも=

いったん建物が温まってしまえば、熱の逃げていかない断熱性能の良い建物では、その快適な状態を維持するのに、ほんの少しの熱エネルギーの供給で足りてしまいます。

小さな暖房能力の暖房器具で充分とも言えます。

それでも、断熱材で囲まれた中の物体が温まるまで、快適な暖かさを得ることはできません。

断熱性能が優れている建物であっても、暖房計画はやはり大切になります。


=断熱性能とコストの関係=

無尽蔵にコストをかけてもよい場合を除き、通常家づくりには資金的な制約があります。

その制約の中で、断熱性能へのコスト、暖房器具へのコスト、ランニングコスト、快適性のバランスを考えてみることは、巷にあふれる単純な宣伝文句に踊らされないうえで、重要なことです。


もっとも、そういった発想は、断熱性能だけに限った話でもありませんが。(^^;



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